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1本1本に愛情をそそぎ、ベストな出荷のタイミングを図っている。 |
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紫系のトルコ桔梗。ハウスの中でもひときわ艶やか。 |
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若い頃の苦労を経て、いまでは花に囲まれて
穏やかな日々を送っている上野さん。 |
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ハウスからほど近い作業場で出荷の準備。 |
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品種改良で八重の大ぶりの花を咲かせるトルコキキョウは
いまではウエディングに欠かせない花として定着している。 |
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大安吉日のウエディングにむけて出荷は最盛期を迎えます。 |
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Q4. ハウス栽培の大変さを教えてください。
いやぁ、借金を返済するために働いているようなものです。補助金をもらったとはいえ、ハウスを建てた借金の返済に、燃料費、そしてビニールの張替えなど定期的な出費もかかります。また、先にも述べましたが、台風などの自然災害がきたら、作物の被害に加えてハウスの修繕もしなくてはいけませんので、当然リスクは高いですよね。中途半端じゃ出来ません、覚悟が要ります。旬でない野菜や花を栽培するからハウスの経営は何とか成り立つんです。今秋、試しに「秋スイカ」の栽培を10年ぶりにをやってみました。結構よかったので来年は倍に増やしてみよう…と思っています。
Q5. 花と言えば、綺麗な花が咲いていますが…?
あれは「トルコ桔梗」です。8年前に始めました。この時期は、周辺のハウス農家はキュウリとほうれん草が一般的ですが、私のところは年老いた両親とやっていますので、比較的労力のかからない「トルコ桔梗」の生産をメインに行っています。1本の「トルコ桔梗」から最初の花が咲いて約1ヶ月で出荷し、お客様の手元に渡ってから全ての花が散るまでに1ヶ月と、トータルで2ヶ月近く持ちます。花色の豊富さ、花持ちが良いということから、結婚式の花にはもってこいの花です。しかし、ハウス栽培は露地栽培に比べ早く栽培できるのがメリットですが、早ければいいというものではありません。これからのブライダルシーズンにむけ、土日で大安吉日の日がピークとなります。暦をしっかり把握して、出荷時期を調整しながら栽培しなくてはなりません。こんな私ですが、結構繊細なんですよ(笑)。
Q6. エピソードのようなことはありましたか?
どうしたら農業が成り立つんだろう・・・って常々考えていた時のことです。ご存知の通りマンゴーブームがありましたが、二人の先輩がマンゴーを始めました。マンゴーなんて食べたこともなかったので、どんなものか見にいき、食べさせてもらったところ「これはうまい!これはいい」と、私もマンゴーの生産を始めました。当時は作っても作っても足りないくらいで、県外からも引き合いがくるほどでした。いやぁ、奪い合いって感じですごかったですよ。でももうやめました・・・ブームが下火になったのもありますが、重油の高騰などもあって、マンゴー生産にかかるコストが半端じゃなくなりました。徐々にスイカにシフトして、いまではマンゴーの姿形もありません。
行政から補助金も受けている以上、行政に対して何らかの取り組みも示さなくてはいけません。そこで「五色そうめん」なるものも試作品として作りました。マンゴーはオレンジ、お茶はグリーン、シソは紫、スイカは赤、レモンは黄色です。結構美味しかったですが、結局商品化されませんでしたけどね(笑)。
Q7. 今後はどのような取り組みをしたいですか?
これまで行政が打ち出す政策に期待した時もありましたが、ことごとく裏切られてきました。結局、農家や庶民の方を向いてませんから…。農業で生き残るためには二通りしかありません。ひとつは行政が推進する、農業を法人化し、大量投資して大規模生産をするか。もうひとつは消費者のために愛情を込め、丁寧に育てた本当に美味しいモノを、物産館などを通じて売っていくかのふたつです。しかし、ほとんどの農業従事者は年齢的にも地域的にもどちらも実現不可能です。一部の可能性のある農業従事者のためだけの政策であって、年老いて田舎で一生懸命農業をされている人たちはどうするの?って思います。そうした方たちには申し訳ないのですが、幸いにも私の農園には後者の可能性があります。近くに物産館などの施設があります。私もこれから歳を重ねていきますので、趣味的に楽しく続けていきたいですね。事実、年老いた両親も、楽しく育てた野菜を近隣の施設で販売して、消費者の皆さんに喜んでいただき収益を上げています。大変だった補助金で建てたハウスの返済も、あと数年で完済できま〜す(^o^)/。
可能性としてもうひとつあると言えば…特異な例ですが、人がやらないことをすることですね。どんな分野でもいっしょですが、誰も考えつかないようなことをカタチにし、世間に受け入れられれば成功できます。しかし、これこそ夢のような話ですが・・・。
Q8. 農大の後輩や新規就農者にひとこと。
途中、農業から遠ざかりましたが、30年近く農業をしてきても未だにわかりません。学校で勉強してきたことも大事でしょう。また情熱や憧れといったものも大事かもしれません。しかし、自然が相手です。災害ひとつで、野菜の値段が大きく変わります。また大切に世話しても思い通りに育ってくれるわけではありません。実際に現場に立ち、土をいじり、いろいろな苦労をしても、それでも何とかやりたい…という「覚悟」のある方であれば、私たちは現場で培ったノウハウや技術を伝えきたいと思います。また、趣味的に楽しく続けていきたい、イコールあくせく収益をあげたいと思っているわけではありませんので、これからは「農業を、そして就農者を育てる学校のようなものが作れないものか」と、長年考えてはいるのですが…。
幸い、農大、耕志会のネットワークがあります。それぞれが厳しい環境の中で農業をされている先輩・後輩であり、切磋琢磨するライバルでもあります。加えて周囲には、知恵とノウハウを持った人たちが大勢います。私もあと何年現場で働けることができるかわかりませんが、多くの人と知恵を出し合い、情報を共有して「農業を育て」ていければ…と思っています。
(2014年10月29日インタビュー) |